28歳のとき、私は行き詰まっていました。
建設現場で養生屋として働いて1年が経つ頃、「この仕事でどう生きていきたいのか」というキャリアのビジョンを描けず、私は養生屋を辞めました。
転職活動では、職歴のある営業職なら手ごたえがあるが、未経験の技術職にはまったく手ごたえがないという、現実の厳しさを味わいました。
自分のやりたい事、なりたい職種でキャリアを作り始めていかないと、望まない転職を繰り返すことになる──
「雇用形態にはこだわらない」と腹をくくって、とにかくIT業界に足を踏み入れようと判断しました。
28歳で転職した理由
28歳のとき、私は、建設現場で養生屋として働いていました。
建設現場での「養生」というのは、主に新築のビルなどで施工済みの部分が汚損・破損しないように、プラダン(プラスチック段ボール)で覆うことです。
養生の仕事は、養生箇所のサイズに合わせてカッターナイフでプラダンをカットして、養生テープで貼り合わせるという、工作のような作業です。
建設現場にこういう仕事があることを、養生屋になるまで知りませんでした。
子供の頃から工作が好きで、手先の器用さに自信がある私には向いている仕事でした。
養生屋の面白味
養生屋の面白味は、現場監督と距離感が近いところにもありました。
養生屋は建物全体のスケジュール感を把握しながら養生作業を進めるため、頻繁に現場監督と工事進捗について意識合わせをします。
わりと手が空くことがある仕事でした。たとえば5階の工事が終わって、現場が6階に移ると、養生屋は施工済みの5階部分を養生していきます。その養生が終わってしまうと、手が空きます。
そのため、現場監督の小間使いのような役目もありました。建築資材の片付け、施工済み箇所の清掃、床のワックスがけなど、現場監督から直接、雑用を頼まれるわけです。
そんなこともあって、どの現場に入っても、すぐに現場監督に名前を覚えてもらえました。
そして、名前を覚えてもらうと、指名が入るようになっていきました。
「元請けの○○さんから、品川の現場に入って欲しいって連絡あったけど、行けそう?」みたいな感じで、ゼネコンの現場監督から指名されたりします。
そうなってくると、だんだん仕事に責任と誇りを感じるようになっていきました。
本当にやりたい仕事じゃないという葛藤
養生屋の仕事は、自分の気質にも合っていました。
作業にルーティンワークは無く、常にその時その場で臨機応変に対応する必要がありました。
「どうやってプラダンをカットすれば無駄が出ないか」「架設を階段で運ぶって言ってたから厚めにしておくか」など、考えながらやる仕事というのは、工夫して物を作ることが好きな自分にはぴったりでした。
しかし、1年も仕事を続けてすっかり慣れた頃、この先が気になり始めました。
まったくパソコンを触らないという環境にも不安を感じていました。毎日、カッターナイフとプラダンと養生テープしか触っていないのです。
ITスキルがまったく育たない、世の中から取り残されているような不安感。
この仕事を続けていったとして、将来はどうなるんだろう?
この仕事で、どうなっていきたいんだろう?
どうしてもキャリアを描けません。
結局、1年が過ぎた頃、成城学園の小さなビルの改修工事を最後に、養生の仕事を辞めました。
28歳でスキルが無いから決まらない
またも転職活動をする羽目になってしまいました。
私は技術職に憧れを持っていましたが、自分の職歴ではどうしても近づくことができません。
そして、自動車製造ライン作業 → 運輸業の仕分け作業 → 建設現場の養生屋 とガテン系を渡り歩いてきたせいもあって、IT系の実務的スキルが育っていません。
自分がなりたい職種は見えているのに、土台が低すぎて手が届かない状態なのです。
「未経験可」の技術職でも不採用
それでも、私は「未経験可」の技術職の求人を見つけては応募を続けていました。
そのなかで一つだけ、面接の連絡をくれた会社があり、社長と直接面接しました。SES(エンジニアを客先常駐させる業態)の会社でした。要するに、現場への急な人員補充というわけです。
社長「未経験可といっても、プログラミングの経験くらいはないと。あなた、プログラミングの経験はあるの?」
…
自分「無いです。」
落ちました。
いや、本当はあるんです。小学生の頃にBASICという言語で単純なゲームを作ったことがあるし、学生の頃にはWebサイトに動きを付けるちょっとしたギミックをJavaScriptという言語で組んだことがあります。
でもそれは仕事じゃないし、面接でアピールできるような経験ではないのです。
転職市場での自分の価値が無いような気がして、私は自分に自信を持てなくなっていました。
経験のある営業職なら好感触
私は、一度、保険会社の営業職を受けてみようと思いました。自分に価値があるのかを確かめたいという気持ちがありました。
そこで、損害保険会社の営業職の求人に応募してみました。職歴で最も評価されるであろう、ど真ん中に球を投げてみたわけです。
ストライクでした。
すぐに面接の連絡があり、求人に記載されていた採用担当者と面接に。
私は、「保険営業の研修期間に敢闘賞を取ったこと」「法人への飛び込み営業をしていたこと」「営業成績が支店で1位の月もあったこと」を話すと、もうその場で内定が出るんじゃないかと思うくらいの好感触。
面接が終わると「営業所を案内しますよ。」と言われて、営業所を見せてくれました。
私が保険営業時代に勤めていた札幌支店の光景が重なって、懐かしい気持ちになりました。
業界未経験と職種未経験の、決定的な差
内定を確実視できるほど好感触だった保険会社の面接でしたが、次の面接は断りました。私は、どうしても技術職への転職じゃなければ納得できなかったのです。
ただ、この転職活動での2つの面接から、明確に分かったことがありました。
自分の場合は、『営業職』なら採用されるということです。
今回は、職歴ど真ん中の保険営業への転職活動でしたが、おそらく、業界が違っても『営業職』なら手ごたえがあるんじゃないかと思います。
そして、職種未経験の『技術職』には、まったく手ごたえがありませんでした。
転職市場では、職種の経験が見られ、その職種での実績が評価される。たとえそれが、自分のやりたくない仕事であったとしても、キャリア形成されてさえいれば転職しやすいということです。
逆に言えば、やりたい仕事・職種があるなら、それでキャリアを作っていくことを始めなければ、その先の転職は常に望まないものになる──
という未来がはっきりと見えた気がしました。
雇用形態にはこだわらないと決めた
自分が望む『技術職』に進むためには、正社員を前提にした転職では無理だという結論に達しました。
どんな雇用形態でもいいから、とにかくIT系の仕事について、経験を積まなければならないと判断しました。
その場しのぎの転職を繰り返しても、いつまで経っても技術職には近づけない、キャリアも作れないし、ITスキルも身に付かない。
技術畑に足を踏み入れるには、ストレートにIT系の会社で働くのが近道かもしれないと思い、私は派遣の求人を見てみました。
携帯電話会社の無線調査という仕事
IT系の求人はたくさんありました。
「経験不問」「未経験可」のタグに着目して求人を見ていくと、
携帯電話の無線調査 経験不問・未経験可 出張あり
という求人がありました。勤務先の会社の欄には、誰もが知っている大手携帯電話会社が書かれていました。
驚きました。雇用形態にこだわらなければ、機会は潤沢に用意されていたのです。
よく見ると勤務先はちょっと違い、実際は大手携帯電話会社のグループ会社でした。
それでも、IT最先端の携帯電話の仕事ができるならやってみたい。と思いました。
派遣で働くか、自力で探すかの迷い
・IT系の求人は多く、容易に紹介してもらえる。「未経験」にもできる仕事がある。
・勤務先の候補は大企業も多く、
・給与は、正社員ほど高くはないが、時給は高めで悪くない。
・職務経歴では派遣期間が評価されにくい。数年の勤務履歴、業界資格の取得などを実績として見てもらえる場合はある。
・現状ではほぼ不可能。プログラミングなどのITスキルを自力で育ててから再挑戦するしかない。
・転職先はおそらく中小企業。大企業は絶対に無理。
・給与は、未経験なので下がる。
・職務経歴になるキャリアを作り始めることができる。
派遣の求人を見てみたものの、正直、派遣で働くことには懸念がありました。
それは、
派遣って、キャリアになるの?
というところです。派遣でIT業界で働いたとしても、それがキャリアにならなければ、また次の転職で「未経験」扱いされてしまいます。
でも、それは伝え方だろうとも思いました。派遣でも、やってきた事、努力した事、成し遂げた事があれば、それは堂々と職務経歴に書いたっていいはず。
与えられた環境で、やれるだけの事をやってやろう。という気持ちが湧いてきました。
ネット上でエントリーすると、すぐに派遣会社から面談の連絡があり、翌週から勤務することになりました。
出勤してわかりました。人が足りなくて、無線調査が回らない状況になっていたのです。
28歳で転職して分かったこと
28歳の転職活動では、「職歴・スキルが無い仕事には就けない」という現実を突きつけられました。
もう、やる気やポテンシャルだけを見てもらえる年齢ではなかったのです。
それでも、やりたい仕事、なりたい職種があるのなら、そのキャリアを作り始めていかなければならない。という覚悟を迫られた転職でした。
職歴・スキルの有無が転職の可能性に直結する
28歳のときの転職活動で感じたのは、年齢そのものが足かせになっているわけではないということでした。
よく言われる「20代後半の壁」や「未経験は厳しい」という言葉の本質は、年齢の数字にあるのではなく、「その年齢までに、どんな職種のキャリアを積み上げてきたか」というところです。
私の場合、ガテン系の仕事を渡り歩いてきました。しかし、転職市場において、それらの経験は「IT系の技術職・エンジニア」へのキャリアには何の足しにもならないものでした。
「未経験可」の求人に応募しても、プログラミング経験や実務の土台がなければ面接でも話にならない。一方で、保険会社の営業職に応募すれば、法人営業経験という「明確な職歴」だけで好感触。
なぜ、自分の転職活動がいつも行き詰まるのか。その原因が明確になった瞬間でもありました。
雇用形態のこだわりを捨てて道が見えた
正社員を前提に技術職を目指すのは無理だと判断しました。当然です、職歴が無いんだから。
それで腹をくくりました。「雇用形態はどうでもいいから、まずは目指す道に足を踏み入れよう」と。
携帯電話の無線調査の仕事が、自分のやりたい仕事かどうかは、この時点ではわかりません。ただ、まずはITの環境に身を置いて、その中で道を探っていけばいい。という判断をしました。
私の場合は、派遣という雇用形態を選ぶことで、IT最先端の技術や現場に近づく機会を得ることになりました。
次回は、

